あぼいどのーと

インターネット初心者

第一回 ミスチル楽曲レビュー ~『Any』編~

 実は結構ミスチルファンなので、ミスチルの好きな曲についてあれこれと感想を書くシリーズを始めることにした。何回続くかわかりません。内容もけっこう適当。……

 

 記念すべき第一回は『Any』だっっ!!

 

1.基本情報

 『Any』は、Mr.Childrenの23枚めのシングル。2002年発売。

桜井和寿が小脳梗塞に倒れる直前に発表された楽曲でもあったりする。

白い部屋で白い桜井が歌うというやたら無機質なPVも印象的。

曲自体は、軽快なブラスやギターに彩られた、ミスチルらしいポップ・ロックという感じ。

 

2."B♭"という音

 『Any』のキー(主調)はB♭変ロ長調)であるわけだが、この主音であるB♭音(シの♭)が一曲を通して非常に印象的に使われている。

 ピアノだけで奏でられるイントロをよく聞くと、最初からほぼ2拍ごと(コードが展開するごと)に、トップノートとしてB♭音が鳴っている。時報を告げる鐘のように、きわめて規則的かつ断続的に。

 その間、他の指で抑えられるコードとの兼ね合いでいえば、必ずしもB♭音が協和しているとは言い難い瞬間もある。いわゆるテンションノートというやつで、しかしこれによってイントロ部には独特の緊張感がもたらされている。

 白を基調としたPVの静謐な印象とも相まって、まるでB♭という天井から透明な糸で吊り下げられているかのような張り詰めた感覚が聴くものを襲う。

 このトップノートがさらに強烈に意識されるのは、サビの頭。「今僕のいる場所が」という出だし、「今」の「」がB♭で歌われる。これがこの曲のボーカルの最高音なわけだが、さきほどまでぼんやりと見え隠れしていたB♭という天井に、桜井のパワフルな高音によって強引に引っ張り上げられ、ぶち当てられたかのような衝撃を受ける。かと思えば、「探してたものと違っても」という部分では裏声でソフトに接近する。B♭をあれやこれやの手付きで愛撫しているのだ。

 そしてサビ終わり、またイントロと同じピアノが繰り返される。上品なストリングスを伴い、B♭は再び整えられる。

 

3.12色の心ってなんだ

 すこし巻き戻して、サビが終わる直前のところを聴いてみよう。

 「何度も手を加えた 汚れた自画像にほら また12色の心で 好きな背景を書き足していく

 ここで12色という具体的な数字が用いられているのは、一般的な音階が全12音で構成されているという事実にヒントを得たものだろう。要は、「色々あったけどこれからも自由に新しい音を紡いでいくぜ、それがミュージシャンの使命」みたいな話である。

 ここで注目したいのが、この歌詞につけられたメロディー。

 「また12色の心で」と「好きな背景を書き足していく」の部分は、どちらも同じような旋律のうごき(ファソラシド)をベースにしているのだが、実はこの間で転調が起こっている。B♭から短二度上のD♭に一瞬だけ移っているのだ。それによって、ただでさえホールトーン(全音音階)的で逸脱感のあったメロディーが、余計に奔放なパワーを放つようになる。実際、この短い4小節のあいだで、あわせて9個の音が使われているのだ。これはまさに「12色の心で好きな背景を書き足していく」状況ではなかろうか。これほどまで歌詞とメロディーの歩調がピッタリ合った曲も中々ない気がする。

 「僕の中に潜んだ暗闇を無理やりほじくり出し」たり、「真実からは嘘を、嘘からは真実を」探したりと、何か「絶対的な答え」を求めもがき苦しんでいた状況から一転して、「なんでもいい」「すべてが真実」という文字通り"any"な相対主義的世界観に到達する。そんな自由で解放的な雰囲気に満ちた楽曲がこの『Any』であるといえる。

また、そうした自由を証明するかのように、交差点や信号機、排気ガスのにおい、クラクション、壁の落書き、そして破られたポスターは、気ままに放り出される。

 

4.自由、しかし……

 そんなこんなでドラマティックな旋律の動きを経て、『Any』は絶対性から解放されたかに思える。しかし! やはりB♭が強い。アウトロこそなぜかA♭で終わるが、一曲通して聴いても、B♭という天井の存在感は大きい。なんというか、「"すべてが真実"なんていうのはまさしく"卓上の空論"に過ぎないかもしれないよ???」みたいな、煽りと抑圧のエネルギー、静謐なアイロニーが眠ったままキープされているかのようだ。

 で、結局そこのバランスと言うか、「主音の持つ絶対的な引力」とそれに抗う「12色の心」のせめぎあいみたいなのが、『Any』が描く壮大なドラマでありこの曲の最大の魅力なんじゃないか、と思えてくる。どっちかが勝って、勝ったきりにするのではなく。

 拡大解釈に過ぎる気もするが、まあたまにはこういう妄想爆発的な音楽の聴き方も悪くないんじゃないでしょうか。ということでよろしくお願いしたい。

 おわり!!!!!!(第二回へ続け)

 

 【修正】

 「また12色の心で好きな背景を書き足していく」のところ、「転調」と書いたけども正しくは「借用和音を使っている」といったほうがいいのかもしれない。ここでのG♭Mはサブドミナントマイナー(E♭m)の代理和音として機能しているっぽい。しかしそれを部分転調と呼んでも差し支えないのかな? 音楽理論ムズイ!!。 

まあいずれにせよ「12色の心感」が醸し出されているのには違いない。