あぼいどのーと

インターネット初心者

阿部慎之助、タバスコ、「たんなる食べもの」

 今朝の『ズームインサタデー』のジャイアンツコーナーは「俺の勝負メシ」みたいな趣旨でやっていて、要はジャイアンツの選手たちがここ一番で験担ぎとしてなにを食べるのか?というのをインタビューしてまわるというものだった。

 いろいろな話が聞けて面白かったのだが、なかでも阿部慎之助が「ポテトサラダにタバスコかけて、それを白ごはんに乗っけて食うとウマイ」みたいなことを熱弁していたのには驚いた。というかちょっと引いた。

 

 まあしかし、白ごはんはさておき、「ポテトサラダにタバスコ」という組み合わせはありだ。そう思ってさっきダイエーでポテトサラダとタバスコを買ってきた。ビールのお供にしようと思う。あと半額のピザ一切れ。これにもタバスコをかける。

 

 というわけで(?)今日はタバスコについて書いてみようと思う。

 

 

 僕の初タバスコは、地元のピザ屋のピザについてきた小さいパックのやつだった。まだ子どもだった僕からすると、辛くてすっぱいタバスコは「大人の食べ物」という感じでやや距離の感じられる調味料だったのだが、しかしその遠さゆえの憧れのようなものもたしかにあった。しかも、市販されているやつのパッケージに載っていたのは、「選び抜かれた赤唐辛子と、塩と、ビネガー。」というシンプル極まりないキャッチコピー。これも子供心に、無頼な感じでカッコいいじゃん、とか思っていた。

 

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 年齢を重ねるに連れて辛いのも平気になり、いろいろな料理にタバスコをかけるようにはなったのだが、しかし僕にとってのタバスコの原型は、あくまでも「地元のピザ屋のピザにかけるソース」だし、「なんとなくカッコいい大人の調味料」なのだ。

 その大雑把なイメージは、もちろん子供の認識の貧弱さに由来する浅はかなものではある。けれども、そうであるからこそのイノセントワールド感というか、「あのなんか辛いソース」という曖昧な捉え方ゆえの想像力のふくらみというか、そういうものにある種の郷愁を感じるのもまた事実。子供には「わからないことだらけ」という暗がりのエロスを味わえるという特権があったし、大人もときにその記憶を弄んでいる。

 

 考えてみれば、ピザも同じだ。「世界一のピッツェリアが作る、どこどこ産のなになにを使ったナントカ風ほにゃららピッツァ」みたいなこだわり抜かれた一品もたしかに美味しいし楽しい。しかし、そうしたこだわりの極地とは正反対の位置にある「たんなるピザ」への愛着も捨てがたいのだ。「よくわからんけどこの食べ物はピザというらしい」という、初対面のピザ。

 僕にとってそれは、まぎれもなく「地元のピザ屋のピザ」だった。もちろん店主には店主なりのこだわりがあったのだろうが、なまじ子供の僕にとってそんなのは些末な属性でしかなく、あくまでも「ピザであること」というアイデンティティの迫力が重要だったのだ。

 

 そのような、こだわりが(あえて)排除された、独特の魅力を備えた食べもの。つまり「たんなる食べもの」。おそらく家庭料理の醍醐味のひとつも、ここにあるのではないだろうか? 「こだわらない」ことへのこだわり……。

 

 僕が今日ダイエーで買ってきたピザやポテトサラダは、ほとんどこだわりが感じられないという意味で、「たんなる食べ物」に近い。大量生産のお惣菜。それにまつわるストーリーの希薄さ、それゆえの、ある種のイデアリズム。

 

 そしてそのピザに、ポテトサラダに、タバスコをかける。「たんなるピザ」「たんなるポテトサラダ」に、「たんなる辛いソース」をかける。これは食事へのこだわりとは程遠い、「記号の操作」と呼べるような観念の遊びに近い。

 まあこういう快楽は日常にありふれていて、「風呂上がりのビール」とか「こたつでみかん」、「国技館の焼き鳥」なんかもその類いである。そういう記号的な快楽を享受するとき、われわれはきっと、おさなごころに感じた「よくわからないけどたんにそうであるもの」への興奮、あの暗がりのエロスに再び没入できるのだろう。

 

 また、「たんなる」を選ぶというのは、「それ以外の深いところには立ち入りませんよ」という意思表明でもある。タバスコが属すると思われるのは「ホットソース界」だが、その中であえてタバスコを選ぶとき、「ホットソース界の奥深くまでは突っ込みたくない」という畏れと「世界のはじまりのほうだけをまったりと物見遊山していたい」という倦怠とが、同時にあらわれ出ているのかもしれない。

 タバスコを舐めるとき、ぼくはまた、世界の入り口を愛撫しているのだ。

 

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たんなる食べものたち